パブリックドメインのすすめ

著作権切れの音楽、文学を扱うサイトを紹介

パブリックドメイン

ネット上では、ゲームや動画サイトなどのサブカル系の娯楽についての情報は飛び交っていますが、ハイカルチャー系の情報は、少ないように思います。
ネットはサブカルと親和性が高く、ハイカルチャーとは親和性は低い様です。しかし、ハイカルチャーに属する部分の大きいパブリックドメインはネットならではの素敵なサービスで、もうちょっと盛り上がって欲しいな、と個人的に思っているのでここで紹介します。
一応断っておくと、パブリックドメインは、著作権が切れたデータ、作品類のことです。例えば、小説なら死後50年たっている小説家/翻訳家の作品は、その人格権を損ねない限りにおいて、自由に配布することができます。(※ただし1968年以降に死んだ小説家の著作権保護期間は70年になりました。)ここでは、青空文庫、Wikisource、えあ草子、そして音楽でのパブリックドメインを紹介します。

青空文庫

日本で最も有名なパブリックドメインのサイトではないでしょうか。紫式部、夏目漱石、芥川龍之介など日本の文豪の作品のほか、アンデルセンや、リルケなど海外の作品についても、翻訳が古いものであれば読むことができます。
また、私は編集側はやったことがありませんが、Wikipwdiaなどと同様、有志の編集によって運営されているため、意欲ある人は、データベースの拡充に協力すると良いでしょう。
実際、データベースは万全とは言い難く、有名な作品は大抵乗せられていますが、逆にパブリックドメインの作品全ての網羅には至っておらず、有名な作家でさえ一部の作品しか格納されていないのが現状です。特に近年著作権の切れたばかりの小説家に関しては、まだデータベースの拡充に乏しいです。例えば、2015年あたりに著作権の切れた谷崎潤一郎などは代表作の細雪でさえ、上巻しか保存されていません。理想をいえば、たとえ本の入手が困難な稀書であっても、どんな作品であっても保存し、誰でも読むことができるようにする、というのが目標点でしょう。ただ、青空文庫自体がおそらくそこまで流行っていないためか、編集の動きも盛り上がりに欠けるのが現状と思われます。また、ほとんど匿名の有志で運営されているために、編集者のモチベーションが上がらないというのも原因かもしれません。なんにせよ、なんとか盛り上がってほしいところ。
また、蔵書数の不足の他の難点としては、データベース的要素が強くそのままでは読みにくいところが挙げられます。この点の解消に次 のえあ草子が有用になってきます。
青空文庫へ

えあ草子

えあ草子はテキストデータを縦書きで紙の本のような質感とともに読むことを可能にするWEBアプリです。基本的に利用は無料です。サイト内の青空文庫図書館というサービスを使って、簡単に青空文庫内の作品を検索し、えあ草子の形式で閲覧できます。
ちなみにパブリックドメインとは直接関係ないのですが、このえあ草子では、青空文庫だけでなくURLさえ知っていれば様々なテキストデータを縦書きの本の形で読み込ませることができ、例えば、「小説家になろう」、「カクヨム 」などに掲載された作品についても、基本的にはえあ草子を使って閲覧できます。
えあ草子へ

Wikisource

Wikisourceは、Wikipedia系の表示をする世界的なパブリックドメインの文章作品を掲載するサイトです。日本での知名度はあまり高くはないと思いますが、欧米では有名なようです。英語や他言語を習得されている方、勉強中の方は、試してみてはいかがでしょうか。また、日本の作品も青空文庫ほどではないにせよ保管されています。
えあ草子へ

Wikisourceイメージ
Wikisourceイメージ2

音楽のパブリックドメイン

小説と同様、音楽についてもパブリックドメインは存在し、作曲家の死後50年以上で作品の著作権は切れ、録音年から50年で音源の著作権は切れます。
1877年の録音機の発明から140年以上経つ現代では、著作権の切れた音源も数多あります。
クラシックを趣味にしている方は過去の楽譜、音源はネットで手に入れることができることが多いです。
楽譜では、最王手は"IMSLP"でしょう。こちらでは、欲しいと思った楽譜のうち大抵をダウンロードできます。

音源については有名なものとして、"Blue Sky label"が挙げられます。こちらは、パブリックドメイン配布サイトとしては珍しく、個人によって運営されていますが、かなりのデータ量を誇ります。ハイフェッツや、ルービンシュタイン、フルトヴェングラー、グールド、などの巨匠の演奏を無料でmp3の形で手に入れることができます。現在も更新は続いているようです。
ネックは良くも悪くも個人サイトなため、管理人の権限の強いデータベースで、サイト内が少しごちゃごちゃしてるというところでしょうか。
前述のIMSLPでも音源は入手できるのですが、演奏家などを選び出すとあまり数は多くないのが現状のようです。

同系統の音源を保存しているサイトとして、"クラシック音楽mp3無料ダウンロード 著作権切れ、パブリックドメインの歴史的音源"があります。こちらは、2013年から更新されていないらしいところ、サイトの作りがやや淡白なところが難点でしょうか。

また、古典、バロックに限れば、パブリックドメインではないですが、"saladelcembaloというサイトも少し面白いです。こちらのサイトは、著作権切れの古い演奏を扱っているのではなく、現代のプロの古楽演奏家にお願いして、データを収集しているようです。ハープシコードの演奏がメインです。ただ、パブリックドメインではないだけに、サイト外での音源の利用は許諾性となっています。それだとyoutubeで聴くのとかに比べてメリットが薄く感じますが。ただ、いまいち古楽の作曲家や演奏家も知らないけど、適当な"名曲選集"みたいなやつじゃなくて、自分で選んで聞きたい、という人は楽しめると思います。

他にも例えばYoutubeなどの動画サイトはもちろん音源を採集する上ではかなり役立つと思います。ただYoutubeには、違法アップロード作品や認可を受けて特別に曲を使用している動画とパブリックドメインの配布を意図した動画の見分けがつきにくい、音質が劣化している、体系的に管理されていない、などの欠点もあります。
クラシックは本当は欧米のお家芸なはずなので、海外の良い音源サイトがないかも何度か調べたのですが、やはり個人サイトが多く、特筆すべきサイトは見つかりませんでした。どなたか良いサイト、ご存知の方がいたら教えてください。

国立国会図書館デジタルコレクション

こちらは日本の国立国会図書館の保有する資料の国営のデータベースです。有名な文学作品だけでなく、雑誌や、娯楽作品などについても原典の画像の形で見ることができます。また、録音、ビデオなどの資料も保管されています。難点としては、 検索機能などが使いづらいところでしょうか。
国立国会図書館デジタルコレクションへ

パブリックドメイン公開のメリット

ネット上でのパブリックドメイン公開の価値、パブリックドメインに触れることの意義としては次のようなことがあげられると思います。

(1)経済的負担がない。節約になる。
無料であることは学生やお金に余裕のない人にとって重要です。
(2)気軽に作品に触れられる。
普通、商業作品に触れようとすると支払いの段階を通らなければなりません。これは、金銭的負担であるとともに、ユーザーが気軽に作品に触れることを妨げます。
新しい知らない演奏家のCDを買ったり、知らない作家の作品にお金を払って触れるというのは、抵抗のあるものです。そういう抵抗感で言えば、個人的にはお店で現金で買うよりもネットのショップで買う時の方が抵抗を感じます。というのも、ネット上では、現実においてよりも、"商品に触れ、確かめる"という感覚が得にくく、"実態のないものを購入する"ということがつかみどころがないためでしょう。
ネット上の無料データベースを用いれば、そういった抵抗なく、多くの未知な作品に気軽に触れることができます。
(3)価値の定まった作品に触れられる。
パブリックドメインになるような過去の音源、小説などは、大抵すでにその価値について十分な議論がされています。同様に無料で簡単に作品に触れられるサイトとして、ネット上には多くのアマチュアによって作品が投稿され閲覧できるサイト(音楽でいえ ばYoutube, Sound cloud, bandcampなど、文学では、小説家になろう、カクヨム、個人のテキストサイトなど)がありますが、それらにおいては、閲覧が容易な反面、投稿も容易なために、作品の価値は玉石混交になってしまいがちです。もちろん、そこには原石を発掘する別の面白さがあると思いますが、価値の定まった中で作品を探すことができる、というのは有意義だと思います。

パブリックドメインの未来

ネットでのパブリックドメイン公開は、非常に有意義だと思います。ただ、無償のモノであるだけに、また、古典の持つ硬質さから、商業からの支援は薄く、活気がなく、ユーザビリティなどの点で課題は大きいですし、その辺はもう少し何とかしていけたら良いですね。(私は何もしていないので恐縮ですが。)
何か、盛り上がっていくような仕組みができていけば良いなと思います。

作成日:2019/05/10 最終更新日:2019/05/10